強迫性障害(OCD)は、不安や恐怖を打ち消すために、ある考えや行動を何度も繰り返してしまう精神疾患です。たとえば、手を繰り返し洗ったり、鍵を閉めたか何度も確認したり、頭から離れない考えに悩まされたりすることが特徴です。
OCDは人口の1〜3%が生涯のうちに経験するとされており、10代後半から20代で発症することが多いですが、幼少期に症状が始まる場合もあります。
では、どのような人が強迫性障害になりやすいのでしょうか? 最新の医学研究をもとに、発症リスクが高いとされる4つの傾向を見ていきます。

生まれつき「まじめで几帳面」な性格(心理的要因)

強迫性障害の発症には、本人の性格傾向が深く関わっていることがあります。以下のような特徴を持つ人は、リスクが高いと考えられています。
- 完璧主義:「ミスは絶対NG」「すべてを正しくこなさないと気がすまない」
- 責任感が強すぎる:「自分が何か間違えると、大きな問題になるのでは」と不安になりやすい
- 几帳面で慎重:物の配置や順番、ルールなどへの強いこだわり
これらの性格は社会的に「しっかりした人」と評価されやすい一方で、ストレスがかかると強迫的な症状として現れることがあります。
家族に強迫性障害や不安障害の人がいる(遺伝的要因)

強迫性障害には遺伝的な影響も認められています。研究では、以下のような知見が得られています。
- 一卵性双生児の片方が発症すると、もう片方の発症リスクも高くなる
- 親や兄弟にOCDの人がいる場合、本人が発症するリスクは2〜4倍に上昇
ただし、遺伝があるからといって必ず発症するわけではありません。遺伝と環境の相互作用が重要です。

強いストレスやトラウマを経験したことがある(環境要因)

強迫性障害は、もともと不安傾向のある人が強いストレスやトラウマを経験したときに、症状が表面化しやすいといわれています。
- 学業や仕事のプレッシャー:評価や結果に過剰に敏感になり、確認行為が増える
- 大切な人の死や病気:喪失や不安から、「自分の行動が悪影響を与えるのでは」と考えるようになる
- いじめ・虐待など:幼少期のトラウマが後に強迫性障害の引き金になることも
また、連鎖球菌感染症のような感染症をきっかけに発症するケースもあります(PANDASなど)。

脳の働きや神経伝達物質の特徴(生物学的要因)

強迫性障害の背景には、脳の神経回路や神経伝達物質の働きの異常が関係していることが、近年の研究で明らかになってきています。
- 前頭前野(PFC):感情制御や意思決定に関わる領域。過活動により不安や強迫観念が高まる
- CSTC回路(皮質–線条体–視床–皮質):行動の開始や抑制を担う神経回路で、過活動により強迫行為が止められなくなる
- 神経伝達物質:セロトニンの不足、ドーパミンの過活動、グルタミン酸の異常などが関連
特に、グルタミン酸濃度の上昇がOCDの人の脳で確認されており、薬物療法のターゲットとしても研究が進んでいます。

まとめ
①まじめで完璧主義、責任感の強い性格(心理的要因)
②家族にOCDや不安障害の人がいる(遺伝的要因)
③強いストレスやトラウマ、感染症の経験(環境要因)
④脳の神経回路や神経伝達物質に特定の異常がある(生物学的要因)
強迫性障害は、性格や意志の弱さの問題ではなく、脳の働きや環境、遺伝などさまざまな要因が重なって発症する病気です。「性格を変えれば治る」といった誤解をせず、医学的なアプローチによる治療を受けることが大切です。
もし、日常生活に支障をきたすほどの強迫観念や強迫行為に悩んでいる場合は、医療機関で相談することで、適切な治療を受けることができます。 一人で悩まず、専門家のサポートを活用しましょう!