強迫性障害と向き合う毎日は、目には見えないところで心のエネルギーをじわじわと消耗していきます。
一見ふつうに過ごしていても、ふとした拍子に不安が押し寄せてきたり、ずっと緊張が抜けなかったり――。
「このざわついた気持ちがもう少しだけ、軽くなる方法があったら…」
そんなふうに思ったこと、ありませんか?わたしは、何度そう思ったかわかりません。
そんなわたしが、気分転換に森を歩いていて、ふと気づいたんです。
四六時中、頭の中で鳴り続けていた“ざわめき”が、森の中では静かになっていたことに。
大げさではなく、本当に。
あの不思議な現象が気になり、あとから調べてみると、それは「フィトンチッド」という、木々が放つ天然の成分のはたらきかもしれないことがわかりました。
この成分は、脳や自律神経に作用する可能性があるとして、森林医学という学問で医学的にも研究されているそうです。

フィトンチッドって、木が自分を守るために出してる香り成分なんだけど、学問的にも注目されてるんだよ。

森の香りには不思議な力だあるんだね
この記事では、わたしの体験を交えながら、フィトンチッドの効果と強迫性障害の不安との関係を、過去の研究を手がかりに考察していきます。

- 強迫性障害の不安をやわらげる新しい方法を探している
- 認知行動療法や薬以外にも、日常で取り入れられる対策を知りたい
- 自然の力や森林浴に興味があるが、どう役立つのかが気になる
- 気分が張り詰めやすく、心をほぐす習慣を取り入れたい
- 森に行ってみたいけれど、どう過ごせばいいか分からない
森の香りが心を癒す?──自然が持つ科学的な力

私たちは森に入ると、どこか安心したり、気分が落ち着いたりすることがあります。それは単なる「気のせい」ではありません。木々が放つ“見えない香り成分”が、私たちの心と体に本当に作用しているのです。
その中心にあるのが、「フィトンチッド(phytoncide)」と呼ばれる物質です。
フィトンチッドとは何か?

フィトンチッドとは、樹木が自らを細菌や害虫から守るために発している揮発性の天然成分です。とくにスギ、ヒノキ、モミ、カシなどの木に多く含まれ、森に入ったときに感じる清々しい香りの正体でもあります。
そしてこのフィトンチッドは、私たち人間の心と体にも驚くほど良い影響を与えることが、森林医学の研究によって明らかになってきています。
- 副交感神経を優位にし、リラックス状態を促す
- ストレスホルモン(コルチゾール)を減少させる
- 脈拍や血圧を安定させる
- 不安を軽減し、睡眠の質を高める
- 免疫機能(NK細胞の活性)を向上させ、癌への抵抗力を高める
つまり、フィトンチッドを含む森林の空気を吸うことは、自律神経のバランスを整え、不安や緊張を和らげる“自然の処方箋”のようなものなのです。
科学的な裏付けも
たとえば、日本医科大学の李卿(り・けい)氏らが行った研究[※1]では、東京の大手企業に勤務する37歳から55歳の健康な男性12名を対象に、森林環境が身体に与える影響が調査されました。
参加者たちは2泊3日で森林に滞在し、朝と夕方にそれぞれ2時間ずつウォーキングを実施。
その結果、免疫機能の指標であるナチュラルキラー(NK)細胞の活性が高まり、抗がん作用を持つタンパク質の増加も確認されました。さらに、脂肪細胞から分泌されるホルモン「アディポネクチン」(抗炎症作用やインスリン感受性の向上に関与)が、有意に増加していたことも報告されています。
また同じプログラムでは、ストレスホルモン「コルチゾール」の値が明らかに低下していたことも分かっています。これは、森林のフィトンチッドや静けさ、自然の空気そのものが、心と体のストレス反応を和らげる作用を持っている可能性を示す結果といえるでしょう。
強迫性障害は、慢性的なストレスや不安と深く結びついた病気であり、過剰なコルチゾール分泌が脳の働きに影響を与えることも指摘されています。この研究は健常者を対象としたものであるものの、ストレス軽減という観点から見れば、強迫性障害の緩和にもヒントとなる知見が得られるかもしれません。

強迫性障害とフィトンチッドの関係

強迫性障害の方は、脳が常に「警戒モード」にある状態とも言われます。不安や恐怖が頭から離れず、何度も確認したり、特定の行為を繰り返してしまう。その背景には、交感神経の過剰な緊張や、脳の“過覚醒状態”があると考えられています。
フィトンチッドは、そんな状態を一時的にでも緩和する可能性があります。
森に身を置くと、空気中に溶け込んだフィトンチッドが体内に入り、副交感神経が優位になって、呼吸が深く、心拍がゆっくりになっていく。
これによって、頭の中で渦巻いていた思考のスピードも自然と緩み、「今ここ」に集中しやすくなります。
つまり、強迫観念のループを断ち切る“隙間”をつくるきっかけになるのです。
では、実際にフィトンチッドを感じられる“森”とは、どんな場所なのか。わたし自身の体験を交えてご紹介します。
よたきちのおすすめ森林浴スポット
【その1】愛知県新城市の鳳来寺山
森林浴の効果を実感した場所があります。
愛知県新城市にある、鳳来寺山(ほうらいじさん)です。
霊山として知られるその山は、1300年前に利修仙人が開いたと伝えられ、
中腹には、静かに佇む鳳来寺が迎えてくれます。
愛知県の県鳥、コノハズクの声が響き、
大木に包まれた1425段の石段を、ただ一歩ずつ登っていく。
その道のりの中で、ふと気づきました。
いつも鳴り続けていた頭のざわめきが、すこし静かになっていたことに。
鳥の声、葉のそよぎ、足音と呼吸。
考えることをやめたわけじゃないのに、ぐるぐる思考が遠のいていくような時間でした。
石段を登りきったとき、汗とともに、
なにか内側にたまっていたものが流れていったような感覚がありました。
強迫観念の気配が、少しだけ後ろに下がったような、そんな瞬間。
ちなみに――
運動不足のわたしにとって1425段は、なかなかの試練でした。
でも、そのぶん得られた「静けさ」には、十分すぎるほどの価値がありました。
よたきち撮影|鳳来寺山の石段にて
深呼吸とともに、心が少しずつ静まっていく感覚を感じながらシャッターを切りました。樹々に包まれたこの石段には、どこか神聖な空気が流れていて、ただ歩くだけで心が洗われていくようでした。
強迫性障害で心が疲れてしまったとき、こんな静かな場所に身を置くことも、ひとつの選択肢かもしれません。

【その2】長野県の蓼科高原
長野県にある蓼科高原(たてしなこうげん)は、わたしが何度も足を運んでいるお気に入りの場所のひとつです。
標高1000〜1800mの高原地帯には、美しい原生林と静かな湖が広がり、空気がとても澄んでいます。
とくに心に残っているのが、蓼科大滝や御射鹿池(みしゃかいけ)周辺の森を歩いたときのこと。
木漏れ日のなかをゆっくり散策していると、気づけば思考のスピードがゆるやかになっていて、
頭の中を占めていた“考えごと”が、少しずつ遠のいていくように感じました。
また、女神湖や白樺湖のあたりもとても気持ちのよい場所でした。湖畔のベンチに座っているだけでも、心の奥に風が通るような感覚があります。
蓼科周辺には、森にとけこむように建てられた小さなオーベルジュ(宿泊付きレストラン)が点在しています。
静かな森の中で、美味しい料理と自然の呼吸を味わう時間。
「こういう時間が、ほんとうの休息なんだな」と、実感した素晴らしい場所でした。
蓼科には、森の中に静かに佇む宿や、温泉付きの癒しの宿がいくつもあります。
自然の中で、心と身体をそっと整えたい――そんなときは、泊まりがけで訪れるのも、きっと素敵な選択になるはずです。
森の中にそっと佇む宿や、心まで温まるような温泉宿も、蓼科にはたくさんあります。
自然のそばで、心と身体をやさしく整える時間。そんな過ごし方も、たまにはいいかもしれません。
気になる方は、蓼科の宿をのぞいてみてください。
いまのあなたに合う場所が、見つかるかもしれません。
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フィトンチッドの力を、日常に取り入れる

もちろん、理想を言えば本物の森の中に足を運ぶのがいちばんですが、奥深い山まで出かけるのは現実的に難しいこともあります。
そんなときは、近くの森林公園や川沿いの木々、小さな里山でも十分。
大切なのは、自分が「心地いい」と感じられる自然のなかに、少しでも身を置いてみることです。
フィトンチッドの効果を日常に取り入れるのは、思っているほど難しくありません。
たとえば、次のような方法があります。
- 週末に30分〜1時間ほど、緑の多い場所をゆっくり歩いてみる
- 深呼吸をしながら、木々の香りや空気の澄んだ感覚を味わってみる
- ヒノキやスギの精油(エッセンシャルオイル)をアロマディフューザーで焚いてみる
- 木のぬくもりを感じられる家具や、ヒノキ風呂の入浴剤を生活に取り入れてみる
大切なのは、「無理に治そうと頑張りすぎないこと」。
ただ森の中に身を置くだけで、気づけば心がふっとゆるむ――そんな静かな癒しが、自然にはあります。

まとめ:自然はあなたの味方になってくれる

強迫性障害にとって、森は魔法の治療薬ではありません。
けれど、薬やカウンセリングでは届かない心の奥の緊張を、ふっと緩めてくれる可能性がある——それがフィトンチッドの力です。
もし、頭の中が不安や考えごとでいっぱいになって、どうしようもない日があったら一度、近くの森や林に足を運んでみてください。
木々の香り、鳥の声、葉の揺れる光のなかで心のざわめきが静まる感覚を味わえるかもしれません。