
あの、ちょっと相談いいですか…?

もちろん!どうしたの?

職場の同僚が最近、“強迫性障害”って診断されたらしくて…。でも、私たちもどう接すればいいのかよく分からないし、本人もあまり多くは話してこなくて…

私は当事者だから気づかなかったけれど、確かに、強迫性障害のことを知らなければ、接し方に戸惑うのは当然かもしれないね。

悪気がなくても、伝え方ひとつで相手を追い詰めちゃうこともあるから、慎重になっちゃうんだよね。

そうなんです。支援をしてあげたいけど、どこまで関わっていいかも分からなくて…。支援のつもりで逆に傷つけてしまったら…って思うと怖くて

うん、支援したいのに怖いって思う、その気持ちもよくわかるよ。
でもね、ちょっとした理解だけでも、十分な支えになるんだよ。
少しだけ強迫性障害を“知っておくこと”が、大きな支援につながります。

この記事で、一緒に考えてみましょう。
強迫性障害は、本人の内面で激しい不安や葛藤が起きていても、外からはその苦しさが見えにくい病気です。
「几帳面な人なのかな」と思っていた行動が、実は強い不安や苦しみから来ていたと知ったとき、私たちはどんなふうに接すればいいのでしょうか?
この記事では、職場でできる具体的な支援方法と、知らずにやってしまいがちなNG対応について、わかりやすく解説します。
強迫性障害(OCD)とは?
強迫性障害(OCD)は、「頭ではおかしいと分かっていても、不安を打ち消すために、やめたくてもやめられない行動を繰り返してしまう」病気です。
職場では、次のような行動として表れることがあります。
こうした行動は、「几帳面な性格」や「こだわり」と見なされがちですが、実際には不安を和らげるために本人が必死で行っている対処行動です。
本人自身も、「やめたいのにやめられない」ことで大きなストレスを抱え、日々葛藤しています。
強迫性障害について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
職場で求められる支援の考え方とは?
“共感”よりも“仕組みと理解”
職場で求められるのは、「気持ちに寄り添うこと」だけではありません。
大切なのは、どうすればお互いに働きやすくなるかを考える姿勢です。
強迫性障害のある人は、自分でも「おかしい」と分かっていても、強い不安のために行動をやめられないことがあります。
だからこそ、頭ごなしに否定するのではなく、安心して仕事に取り組める“仕組み”を整えることが支援になります。
📚 参考になる厚生労働省の関連資料
1. 障害別にみた特徴と雇用上の配慮(令和3年度)
この資料では、精神障害を含む各種障害に対する雇用上の配慮について詳述されています。特に、職場での合理的配慮や同僚への理解促進の重要性が強調されています。
- 出典:厚生労働省職業安定局(障害者雇用対策課)
- URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000653510.pdf
- 概要:精神障害者を含む各種障害に対し、雇用場面での特徴と配慮のポイントをまとめた文書です。強迫性障害に特化した記載はありませんが、精神障害全体への合理的配慮の方向性を示しています。
2. 職場におけるメンタルヘルス不調者の事例性に着目した支援方策に関する研究(平成28年度 総括・分担研究報告書)
この報告書では、メンタルヘルス不調者への職場での対応事例や支援方策がまとめられています。強迫性障害を含む精神障害への具体的な対応策が示されています。
- 出典:厚生労働科学研究費補助金事業(厚生労働省所管)
- URL:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/hojokin/dl/28_15010101-01.pdf
- 概要:研究報告という形式ですが、現場での職場復帰・支援事例を多数掲載されています。強迫性障害に関する記述も含まれており、具体的な対応を考える際の参考になります。
3. メンタルヘルス対策のための教育教材(第5章)
この資料では、強迫性障害の特徴や治療法、職場での対応について解説されています。強迫性障害の理解を深めるための基礎資料として有用です。
- 出典:労働安全衛生情報センター(厚生労働省所管)
- URL:https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/mental/mental_text_201002_3.pdf
- 概要:職場のメンタルヘルス教育用教材。第5章に強迫性障害の説明と職場対応の基本が明記されています。
厚生労働省の資料に基づく職場での支援方法
以下は、厚生労働省が発行する資料をもとに、強迫性障害のある方への職場での対応として参考になる実践例です。
対応例①:「曖昧な指示を避け、具体的なゴールを設定する」
背景
強迫性障害では、「失敗したら大変なことになる」という強い不安から、確認作業を何度も繰り返してしまい、業務効率に影響が出ることがあります。
対応
業務の合格ラインや優先順位をあらかじめ伝えることで、
「どこまでやればいいのか」が明確になり、不安の軽減につながります。
例:
- 「この報告書は8割でOK。あとの修正は会議で対応するから大丈夫だよ」
- 「この確認作業は1回で十分だよ」
参考資料
『障害別にみた特徴と雇用上の配慮』(厚生労働省 2021年)
→ 「精神障害者への配慮」の項にて、業務内容の明確化の必要性が記載されています。
対応例②:「使用する備品を個人専用にする」
背景
汚染恐怖や衛生に関する強い不安がある場合、共用の道具やスペースを使うことが大きなストレスになります。
対応
業務に支障がない範囲で、パソコンのキーボードやマウス、文具などを個人専用にすることで、不安が軽減されることがあります。
例:
- 個人専用のマウス・キーボードを用意する
- 書類を机に置いて受け渡すなど、直接のやりとりを避ける工夫をする
参考資料
『障害別にみた特徴と雇用上の配慮』(厚生労働省 2021年)
→ 環境への過敏さに対する具体的配慮の例が紹介されています。
対応例③:「勤務場所や時間帯の柔軟な調整」
背景
強迫性障害の方の中には、人の多さや騒音、特定の時間帯・空間に強い不安を感じるケースがあります。
対応
静かな場所にデスクを移す、人が少ない時間帯に出勤するなど、勤務場所や時間帯の調整が有効です。
例:
- 時差出勤(不安の少ない時間帯への変更)
- 会議室など静かな場所への一時的な席替え
参考資料
『職場におけるメンタルヘルス不調者の支援方策に関する研究報告書』(厚生労働省 平成28年度)
→ 作業環境の調整が支援策として多数紹介されています。
対応例④:「配慮の理由」をチーム内に丁寧に共有(本人の了承を得て)
背景
配慮を受けている本人が「特別扱いと思われたくない」と感じてしまったり、周囲が事情を知らずに誤解したりすることがあります。
対応
本人の同意を得たうえで、配慮の目的や必要性を適切に共有することで、周囲の理解が深まり、協力体制が築きやすくなります。
例:
- 「この対応は体調管理の一環で、みんなにお願いしたいことではないよ」と補足する
- 周囲に業務上の調整理由だけを簡潔に説明する(本人の了承を前提に)
参考資料
『メンタルヘルス対策のための教育教材(第5章)』(厚生労働省・労働安全衛生情報センター)
→ 職場全体の理解を得るための配慮の伝え方が紹介されています。
このように、ほんの少しの配慮でも、本人にとっては大きな安心につながります。
特別な知識や資格がなくても、職場の中でできる支援はたくさんあるのです。
知らずにやってしまいがちなNG対応
職場で「励ましたい」「前向きになってほしい」「寄り添いたい」という気持ちから、つい無意識にかけてしまう言葉があります。
ですが、こうした善意の言葉が、強迫性障害のある方にとってはプレッシャーや誤解につながり、かえって苦しさを増してしまうこともあります。
❌「気にしすぎだよ」「大丈夫だって」
NG理由:
強迫性障害は、本人にも不合理だとわかっている不安に苦しむ病気です。「気にしすぎ」といった言葉は、その不安を軽く扱われたと感じさせ、「理解してもらえない」と思わせてしまうことがあります。
望ましい関わり方:
「つらい時はいつでも話してね」「できる範囲でサポートするよ」「困っていることがあったら教えてね」など、安心して話せる空気をつくることが支援になります。
参考資料:
厚生労働省『メンタルヘルス対策のための教育教材(第5章)』:精神障害への職場対応として、感情の受容と配慮の重要性を解説。
❌「一度ミスしてみれば?」「慣れれば治るよ」
NG理由:
これは“曝露療法”のような対応ですが、専門家の管理なしに実施すると、かえって症状を悪化させる可能性があります。
望ましい関わり方:
本人のペースを尊重し、「無理に変えようとしない」ことが何よりの支援になります。
参考資料:
日本不安症学会『OCD治療ガイドライン』:ERP(曝露反応妨害法)は段階的・計画的に医療専門家の管理のもとで実施すべきと明記
❌「それくらい誰にでもあるよ」「考えすぎなだけじゃない?」
NG理由:
共感のつもりでも、苦しみを「よくあること」と一般化されることで、本人の苦しみが軽視されたと感じられ、孤独感や疎外感につながる可能性があります。
望ましい姿勢:
「大変そうだね」と事実に寄り添う言葉や、「何か困っていることがあれば聞かせてね」と、相手の状況に合わせた対応をすることで相手の安心につながります。
参考資料:
厚生労働省『障害別にみた特徴と雇用上の配慮』(令和3年度):精神障害者への配慮として、特性を軽視せず丁寧な関わりが重要と記載。
「相手を思っての言葉」でも、“受け取り方”によっては逆効果になることがあるということを、まずは知っておくことが大切です。
本人の苦しみや特性を尊重した接し方が、もっとも信頼される支援につながります。
職場でできる支援と配慮
1. 優先順位や期待値を明確に伝える
強迫性障害の方は、「ミスしてはいけない」「完璧でなければ」と思い込みやすく、業務のゴールが不明確だと過度に確認を繰り返すことがあります。
「この資料は8割の完成度でOK。残りは会議で調整しよう」
「この確認作業は1回で十分だよ」
といった声かけが、不安の軽減につながります。
2. 清潔・安全へのこだわりに理解を示す
たとえば、汚染恐怖がある場合、他人と物を共有することや、直接の接触が強い不安につながります。「書類を直接手渡しせず机に置いて渡す」「共用の道具は避ける」など、業務に支障が出ない範囲で対応できることがあれば、できるだけ尊重しましょう。
ただし、職場全体に大きな負担がかかる場合は、本人と話し合って現実的な調整を行うことがことが大切です。
3. 「言葉」より「仕組み」で支える
励ましの言葉も大切ですが、実際の環境や業務フローに配慮することのほうが、本人の安心感につながることが多くあります。
- 個人専用の備品を用意する(共用に強い不安がある場合)
- 電話応対などの苦手な業務を他の業務で補完する
- 不安を感じにくい場所にデスクを配置する
これらは「特別扱い」ではなく、厚生労働省が示す合理的配慮に該当するものです。
4. 相談窓口や産業医との連携を提案する
本人が希望する場合は、産業医やカウンセラー、人事と連携し、継続的に支援できる体制を整えることも大切です。
外部の専門家が関わることで、職場での対応に迷ったときの相談先ができ、本人・周囲の双方にとって安心材料となります。
上司・同僚それぞれができること
上司の立場でできること
- 本人の了承を得たうえで、産業医や人事と連携する
無理に一人で対応を抱え込まず、必要に応じて専門的な支援体制とつなげましょう。 - 業務内容やタスク配分を調整する
業務負担や不安の強い作業を整理し、無理のない働き方にする工夫が大切です。 - プライバシーを尊重し、周囲への説明は最小限にとどめる
本人の同意なしに病名や詳細を話すのは避け、安心して働ける環境を守りましょう。
同僚の立場でできること
- 「無理しないで」よりも「こういうとき、どうすればいい?」と具体的に尋ねる
本人がコントロールを持てる聞き方の方が、安心して話しやすくなります。 - 詮索はせず、困っていそうならさりげなく声をかける
関わりすぎず、離れすぎず。「困った時は頼っていいんだよ」と伝わる距離感が理想です。 - その人の“やり方”にむやみに口出ししない
本人なりの工夫やルールがある場合、それを尊重する姿勢が信頼につながります。
「公平性」と「支援」のバランスをどうとる?
「配慮をすると他の人が不公平に感じるのでは…」
そんな声は、職場で支援を考えるときによく挙がる疑問です。確かに、一部の社員にだけ特別な対応をしているように見えると、他の社員からの反発や誤解を招くこともあります。
しかし、ここで大切なのは「支援=特別扱い」ではないという視点です。
厚生労働省が示す「合理的配慮」とは、その人が力を発揮できるように、必要な条件や環境を整えることを意味します。
たとえば、車いすを利用する社員のためにスロープや昇降機を設置することは、“特別扱い”ではなく、業務を円滑に進めるための正当な環境整備です。
それと同じように、強迫性障害を抱える人にとっての「静かな作業環境」や「明確な業務指示」があることは、仕事の質を保つために必要な条件であり、“特別扱い”ではありません。
むしろ支援のあり方を正しく共有することで、周囲の理解が深まり、職場全体の安心感や働きやすさが高まります。
強迫性障害に限らず、「個別に配慮する文化」が根付くことは、誰かが困ったときに自然と手を差し伸べられるチームづくりにもつながります。
まとめ:一緒に働き続けるためにできること
強迫性障害の本質は、几帳面な性格ではなく、「不安を和らげるための行動が、自分の意思ではやめられない病気」であるということです。
だからこそ、曖昧な業務指示を避け、安心して働ける環境を整えることが、支援の第一歩となります。
無理に変えようとするのではなく、「今できること」を一緒に探しながら進んでいく——そんな関わり方が、本人の安心感を支えるだけでなく、周囲との信頼関係を育て、職場全体の土台を強くしていきます。
上司や同僚、それぞれができる配慮は、決して“特別扱い”ではなく、チームの成熟を促す大切な要素です。
明確な指示や安心できる仕組みは、強迫性障害のある人に限らず、誰にとっても働きやすさにつながり、結果として力を引き出すことにもなります。
本人の希望を尊重しながら、必要に応じて産業医や専門家と連携することも、有効な選択肢のひとつです。
強迫性障害のある人も、そうでない人も、誰もが安心して力を発揮できる職場をつくることは、組織全体にとって大きな価値となるはずです。