
あの……ちょっと聞いてもらっていいですか。 さっき駅で歩いてたとき、すれ違った人にぶつかった気がして……。 でも振り返っても誰も倒れてなかったし、たぶん気のせいなんですけど……。 それでも「自分が誰かを傷つけたんじゃないか」って不安が消えなくて。

それってね、強迫性障害の中でも「加害恐怖タイプ」に多い悩みなんだ。 実際に何かをしたわけじゃなくても、「してしまったかも」という考えが繰り返し浮かんできて、それを確かめずにはいられなくなるの。

うん、それって“確信が持てない感覚”がすごく強くなってる状態なんだよね。 だから頭の中で映像を何度も再生したり、実際に現場に戻って確認したくなっちゃうんだ。

あ……やっぱりそういうことってあるんですね。 頭の中で何度も映像みたいに再生されて、「本当にやってないのかな?」って確信が持てなくなるんです。

その「確信が持てない感覚」、それが強迫性障害のしんどいところなんだよね。 でも、大丈夫。ぴょんたと一緒に、どう付き合っていけるか考えてみよう。
加害恐怖の強迫性障害は、一見すると「気にしすぎ」や「思い込み」と片付けられがちですが、本人にとっては深刻な苦しみを伴います。
この記事では、なぜその不安が消えないのか、そしてどのように向き合えばよいのかを一緒に考えていきます。
「加害恐怖タイプ」の強迫性障害とは?

「誰かに何かしてしまったかもしれない」という不安。
これは、強迫性障害(OCD)の中でも「加害恐怖」と呼ばれるタイプに多く見られる特徴的な症状です。
実際には何もしていないにもかかわらず、「あのとき誰かにぶつかったかもしれない」「不注意な行動で他人に危害を加えてしまったかもしれない」といった思考が、頭の中で何度も繰り返されるようになります。
こうした不安は、単なる“気にしすぎ”とは異なり、ご本人にとっては現実味のある恐怖として強く感じられます。
不安を払拭するために、何度も思い出して確認しようとしたり、周囲の人に尋ねたり、現場に戻って確認したくなるといった行動につながることもあります。
このような状態が続くと、日常生活や人間関係、仕事にも大きな影響を与えるようになり、本人の心の負担は想像以上に重くなっていきます。
加害恐怖タイプの強迫性障害は、「自分が加害者になることへの極端な恐れ」によって成り立っており、その背景には強い責任感や他者への配慮、罪悪感の感じやすさが関係していることもあります。
よくある具体例
- 電車のホームですれ違ったとき、「突き飛ばしてしまうのでは」と不安になる
- 車の運転中、「さっき人をはねたかも」と思って戻ってしまう
- 子どもとすれ違ったあと、「ぶつかって泣かせたかも」と不安になる
- 店を出たあと、「万引きしてしまったのでは」と心配になる
- 財布やカバンを持っていると、「誰かの物を盗ってしまったのではないか」と感じる
- 鋭利なもの(ハサミや包丁など)を持ったとき、「誰かを傷つけてしまうのでは」と急に不安になる
どれも、「実際には何もしていない」のに、“してしまった気がする”あるいは“してしまいそうな気がする”という感覚が強くなるのが特徴です。

確認行動がやめられない

こうした不安が強くなると、人は「安心」を求めて確認行動を繰り返してしまうようになります。
- 現場に戻って誰か倒れていないかを確認する
- ニュースで事故や事件の情報を何度も検索する
- 家族や友人に「私、何か変なことしてなかった?」と繰り返し尋ねる

さらに不安が強まると、交番や警察に「事故は起きていませんでしたか?」と問い合わせてしまうこともあります。
これらの行動は、周囲には奇異に見えるかもしれませんが、本人にとっては、不安から自分を守ろうとする必死の行動なのです。
しかし、確認して得られる安心感は一時的なもので、しばらくするとまた「本当に大丈夫だったのかな……」という不安がぶり返してきます。
こうして、確認する → 一時的に安心する → また不安になる → さらに確認する……という悪循環が続いてしまうのです。
なぜ不安が消えないのか

加害恐怖タイプの強迫性障害では、「頭では大丈夫だとわかっていても、心が納得できない」という感覚が強く現れます。
これは、「確信のなさ(lack of confidence)」や「感覚的な納得感の欠如」が、脳の働きの中で生じているためだと考えられています。
たとえば、「ちゃんと確認した」「誰にもぶつかっていない」と思い返しても、「でも、本当にそうだったのかな……」と不安がぶり返してくる。
この繰り返しが、「確認しないと落ち着かない」という思考や行動のパターンを強化してしまうのです。
また、「人を傷つけてはいけない」「迷惑をかけたら取り返しがつかない」という強い信念がある人ほど、不安を放置することに耐えられず、どうしても確認行動に頼ってしまう傾向があります。
こうした不安の持続は、強迫性障害の一症状としてよく知られており、決して本人の性格や努力不足によるものではありません。
不安との向き合い方とセルフケア

強迫性障害の治療では、「不安をなくすこと」よりも「不安があっても行動しないこと(確認しない)」を目指します。
たとえば、「確認せずに過ごす練習」を少しずつ取り入れていきます。
不安を受け入れるためのセルフケア
- 「これは加害恐怖のパターンだ」と認識する(ラベリング)
「これは私の性格や現実の問題ではなく、強迫性障害の症状なんだ」と名前をつけるだけで、少し距離が生まれます。 - 「完璧な安心じゃなくていい」と自分に言い聞かせる
完全な確信を求めるのではなく、「少し不安が残っていても行動しない」ことを目標にします。完璧を目指すほど、確認が止まらなくなります。 - 不安が強いときは「不安日記」に書いて客観視する
その場で感じた不安や思考をノートに書き出すことで、「これは繰り返しているパターンだ」と気づくことができ、不安との距離が取れます。 - マインドフルネスなどで不安と距離を取る
呼吸や五感に意識を向けることで、「いまここ」の感覚に戻り、不安の渦に巻き込まれにくくなります。考えすぎる前に、一度ゆっくり息を吐いてみるだけでも効果があります。 - 「確認したくなる気持ち」を否定せず、少し待ってみる
「確認したい」と思った瞬間にすぐ行動せず、まずは1分だけ待ってみることから始めましょう。これは「確認行動の遅延」と呼ばれる方法で、不安があっても即座に反応しない経験を積むことで、少しずつ不安に対処する力がついていきます。慣れてきたら2分、5分と徐々に伸ばしていきましょう。 - 成功体験を記録しておく
「今日は確認しなくても平気だった」「不安だったけど何も起きなかった」など、小さな成功体験を書き留めておくと、次の不安時の支えになります。
最初はとても怖く感じるかもしれません。 でも、少しずつ「確認せずに不安と一緒にいられる時間」を増やすことで、脳が「確認しなくても大丈夫」と学んでいきます。
優しさの裏返しとしての加害恐怖

加害恐怖タイプの人は、責任感が強く、人を傷つけたくないという思いが人一倍強い傾向にあります。誰かを不快にさせたり、迷惑をかけたりすることを極端に避けようとするその姿勢は、裏を返せば深い優しさや思いやりの表れとも言えます。
しかし、その優しさが過剰な自己監視や自己批判へとつながってしまうと、「自分は誰かに迷惑をかけたのではないか」「知らないうちに誰かを傷つけたのではないか」といった不安が日常的に頭を占めるようになります。
実際には何もしていないとわかっていても、心が納得できない。そんな状態が続くと、自分の中にある“善意”が苦しみのもとになってしまうのです。
だからこそ、自分を責めすぎないでください。 「不安を感じている」ということと、「実際に誰かを傷つけた」という事実とは、まったく別のものです。 頭の中で何度も不安が再生されても、それが現実であるとは限りません。 その感覚に巻き込まれるたびに自分を責めてしまうのではなく、「これは不安がそう感じさせているだけかもしれない」と立ち止まる視点を持つことが大切です。あなたの感じている不安は、本来とても大切にしている価値観の表れでもあります。
大切なのは、その優しさを自分自身にも向けることです。
まとめ
「やってしまったかもしれない」という不安は、とても苦しいものです。 でも、それはやさしさや責任感の裏返しでもあります。
確認をやめるという選択は、自分を責めないという練習でもあります。 焦らずに、少しずつ「確認しないで過ごせた自分」を重ねていきましょう。
「不安があっても、大丈夫」——そう思える瞬間が、必ず増えていきます。
自分を苦しめるその不安に、少しずつ距離をとる工夫を続けていけば、 やがて「確かめなくても平気だった」という感覚が、あなたのなかにも芽生えてきます。
それは、ほんの小さな変化かもしれません。 でも、その一歩一歩が、確実にあなた自身を軽くしてくれます。

まずは、「確認したくなったら1分だけ待ってみる」っていうのから、やってみようかな…。

うんうん、それすごくいいと思う!できたら小さなメモに残しておくと、あとで自信にもつながるよ。

怖さがあっても、その小さな一歩が回復への道になるからね。ゆっくり、無理せず進んでいこう。