強迫性障害にTMSは効く?日本の精神科医が否定的な理由

強迫性障害にTMSは効く?日本の精神科が否定的な理由

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強迫性障害(OCD)の治療といえば、薬物療法や認知行動療法(CBT)が中心です。
しかし「思うように改善しない」「副作用がつらい」と悩む人も少なくありません。

そこで注目されているのが、TMS(経頭蓋磁気刺激)です。脳を磁気で刺激し、症状を和らげることを目指す新しい治療法で、アメリカではすでに強迫性障害への適応がFDA(米国食品医薬品局)に承認されています。

それなのに――。
なぜ日本の精神科医ではTMSに慎重、あるいは否定的に見える声が多いのでしょうか?

この記事では、TMSの仕組みや効果を示す最新研究、日本で普及が進みにくい背景、そして実際にどんな人に向いているのかまで、わかりやすく整理していきます。

目次

TMS治療とは?|強迫性障害に期待される新しい選択肢

TMS治療とは?|強迫性障害に期待される新しい選択肢

TMS(経頭蓋磁気刺激)とは、磁気を使って脳の一部を刺激する治療法です。頭に専用の装置を当て、電磁パルスを繰り返し与えることで、神経細胞の働きを整えることを目的としています。

薬のように体全体に作用するわけではなく、脳の特定の領域にピンポイントでアプローチできるのが特徴です。そのため副作用が比較的少なく、治療後すぐに日常生活へ戻れるというメリットもあります。

もともとはうつ病の治療法として研究・実用化され、アメリカではFDA(米国食品医薬品局)の認可も受けています。近年はその応用が広がり、強迫性障害にも試みられるようになってきました。薬や認知行動療法だけではなかなか改善が難しい人にとって、「もう一つの選択肢」として注目が集まっています。

TMSの仕組みと基本原理

TMS治療とは?|強迫性障害に期待される新しい選択肢

TMS(経頭蓋磁気刺激)治療は、脳に磁気のパルスをあてて神経活動を整える新しい方法です。特に前帯状皮質(ACC)や背内側前頭前野(dmPFC)と呼ばれる部位をターゲットにしています。

これらは、強迫性障害の症状に深く関わるCSTC回路(皮質-線条体-視床-皮質回路)に含まれています。CSTC回路とは、脳の前頭前野から線条体や視床を経由して再び前頭前野に戻ってくる「ぐるぐる回る神経のループ」のようなもの。普段は習慣や判断をうまくコントロールしていますが、強迫性障害ではこの回路が過剰に働き、「考えが止まらない」「確認を繰り返してしまう」という症状を生み出します。

TMSはこのループの一部(ACCやdmPFC)を刺激し、過剰なスイッチを落ち着かせる役割を果たします。さらに磁気刺激によって神経同士のつながりが柔軟になる(神経可塑性が高まる)ことで、脳が本来のバランスを取り戻しやすくなると考えられています。

TMSの種類:rTMSとdTMS

TMSの種類:rTMSとdTMS

TMS治療にはいくつかの方法がありますが、強迫性障害に使われる代表的なものは rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)dTMS(深部経頭蓋磁気刺激) の2種類です。

rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)

rTMSは、頭の表面近くの脳領域に繰り返し磁気パルスを当てる方法です。うつ病に対しては広く普及しており、日本でも保険診療で使われています。強迫性障害に関しても「有効性を示す研究報告」がある一方で、結果にはばらつきが多く、国際的には「まだ十分なエビデンスが揃っていない」という評価が一般的です。

dTMS(深部経頭蓋磁気刺激)

一方のdTMSは、より深い脳の領域まで磁気を届かせることができます。特殊な「Hコイル」という形状のコイルを用いることで、強迫性障害に関与する前帯状皮質(ACC)や背内側前頭前野(dmPFC)といった深部構造に直接刺激を与えられるのが特徴です。

アメリカでは2018年に強迫性障害治療としてFDA承認を受けており、臨床試験では約3〜4割の患者に症状改善が認められています。日本ではまだ自費診療が中心ですが、今後の可能性が最も期待されるアプローチといえるでしょう。

rTMSとdTMSの違い
  • rTMS:浅い部分に作用、うつ病では実績あり、OCDは研究段階
  • dTMS:深部まで作用、OCDへの効果が実証され承認済み(海外)

どちらも「非侵襲的で副作用が少ない」という共通点がありますが、ターゲットの深さとエビデンスの厚みに違いがあります。

強迫性障害への効果|最新研究とエビデンス

強迫性障害への効果|最新研究とエビデンス

TMSはうつ病の治療で広く使われていますが、強迫性障害(OCD)に対する効果についても近年研究が進んでいます。特にdTMSは、強迫性障害の症状改善に有望な治療法として注目されています。

海外の臨床試験の結果

  • アメリカでは2018年、深部TMS(dTMS)がOCD治療としてFDA承認を受けました。その根拠となった臨床試験の詳細は、翌年Carmiら(2019)の論文として発表されています。
  • 臨床試験では、約30〜40%の患者でY-BOCSスコア(強迫症状の重症度を測る評価尺度)が有意に改善したと報告されています。
  • 特に「薬やCBTが効かなかった人」にも改善が見られ、従来治療が効きにくいケースでの新しい選択肢となり得ます。

代表的な研究例:Carmi et al.(2019)

以下は強迫性障害に対するdTMSの効果を検証した代表的な臨床試験です。

TMS(経頭蓋磁気刺激)治療が強迫性障害に有効であることを示す代表的な臨床研究の一つに、Carmi et al.(2019)の研究があります。この研究は、アメリカとイスラエルの複数の医療機関で行われたランダム化二重盲検比較試験で、強迫性障害に対するdTMS(深部経頭蓋磁気刺激)の有効性を検証しました。

この研究では、99名の強迫性障害患者を対象に、20HzのdTMSを6週間にわたって実施。その結果、以下のような改善が確認されました。

この結果から、dTMSが強迫性障害患者の症状軽減に効果的である可能性が示されています。特に、ACC(前帯状皮質)やdmPFC(背内側前頭前野)といったCSTC回路に関わる領域への刺激が、強迫観念や強迫行為の軽減に寄与していると考えられています。

日本での研究・報告

日本国内ではまだ大規模な臨床試験はほとんど行われておらず、実績は限られています。
そのため、強迫性障害に対するTMSは保険適用外で、自費診療にとどまっているのが現状です。

なお、うつ病に対しては2019年からrTMS治療が保険適用となり、多くの医療機関で行われています。しかし強迫性障害では国内のエビデンスが不足しているため、現時点では自由診療クリニックや一部の精神科での提供に限られています。

一方で、海外のエビデンスやFDA承認を背景に、国内でも施行例は少しずつ増えており、今後の研究や普及に期待が寄せられています

効果の特徴と限界

  • 短期間で効果を実感する人もいる一方、反応が乏しい人もいる
  • 改善が見られても「完全に症状がなくなる」というよりは、生活のしやすさが上がる程度の変化であることが多い
  • 効果の持続性についてはまだ研究途上で、定期的なメンテナンス治療が必要になる場合もあります

最新の研究では、TMS(特にdTMS)はOCDに一定の有効性を示していることが明らかになってきました。
ただし、「誰にでも効く万能な治療」ではなく、効く人と効かない人がいること・効果の持続性には個人差があることも理解しておく必要があります。

日本でTMSが広まりにくい理由

日本でTMSが広まりにくい理由

海外では深部TMS(dTMS)がすでにOCD治療として承認され、実際に使われていますが、日本ではまだ普及が進んでいません。精神科医の多くが「有望ではあるが慎重に考えるべき」という立場を取っているのには、いくつかの背景があります。

1. 保険適用外で高額になる

日本ではうつ病に対するTMSは一部で保険適用されていますが、強迫性障害については自費診療のみです。1クール(20〜30回)で数十万円かかることもあり、経済的負担が大きいのが現実です。
→ 実際に精神科医の中には費用に対して効果が乏しいケースもあると指摘する声もあり、患者・家族が負担に見合うかどうか悩むことが多いのです。

2. 日本でのエビデンス不足

海外では臨床試験のデータが積み上がっていますが、日本国内ではまだ研究例が少なく、効果や安全性に関する長期的データが不足しています。そのためガイドラインに組み込まれず、標準治療として推奨できる段階に至っていません。

3. 医療現場の人員・設備の制約

TMSは専用機器と訓練を受けたスタッフが必要であり、導入にはコストも手間もかかります。規模の小さいクリニックや地域の病院では、設備的に難しい場合が多いのも普及の妨げになっています。

日本でTMSが慎重に扱われる背景には、「高額なのに誰にでも効くわけではない」という現場の実感と、「国内のデータ不足」があります。一部の患者さんにとっては大きな改善が得られる一方、効果が限定的なこともあるため、精神科医の間でも「現時点では様子を見たい」という意見が多いのです。

TMS治療のメリットとデメリット

TMS治療を始める前に、どんなメリットがあるのか、そして注意しておきたい点は何か。
実際に治療を受けるかどうかを考える際には、こうした情報をあらかじめ整理しておくことが大切です。

ここでは、TMS治療全体に共通するメリット・デメリットを、ひと目でわかるように表にまとめました。検討の際の参考にしてみてください。

メリットデメリット
副作用が少ない費用が高額
・薬物療法に比べて副作用が軽度であることが多い。
・主な副作用は治療中の頭皮の痛みや頭痛、不快感などで、重篤な副作用は稀。
・TMS治療は保険適用外の場合が多く、自己負担額が大きい。
・1回あたりの治療費が高額で、継続的な経済的負担が生じる可能性がある。
薬物抵抗性の患者にも有効通院回数が多い
・従来の薬物療法や認知行動療法(CBT)で効果が得られなかった患者にも有効な可能性がある。
・薬物治療と併用することで、効果が増強される可能性がある。
・効果を得るには週に複数回(例:週5回)通院する必要があり、時間的な負担が大きい。
・1回の治療は20〜40分程度かかる。
比較的早い効果が期待される効果に個人差がある
・効果が現れるまでの期間が比較的短く、数週間で効果を感じるケースもある。
・臨床研究では、4〜6週間で強迫性障害の症状が30%程度軽減したという結果もある。
・全ての患者に効果があるわけではない。
・効果の持続期間や再発率には個人差がある。
非侵襲的な治療法刺激中の不快感
・手術や注射などの身体的な侵襲がない。
・麻酔も必要ないため、安全性が高い。
・治療中に頭皮への刺激やチクチクした感覚を伴うことがある。
・磁気刺激によって軽度の頭痛や筋肉のけいれんが起こる場合がある。
認知機能への悪影響が少ない効果が一時的である可能性
・脳の特定部位をピンポイントで刺激するため、他の脳機能への悪影響が少ない。
・認知機能や集中力、記憶力が低下するリスクが低い。
・治療効果が持続しないケースがあり、メンテナンス治療が必要になる可能性がある。
・治療終了後に症状が再発する場合がある。

TMS治療は非侵襲的(手術や麻酔を伴わない“体に優しい治療”)で安全性が高いとされ、薬物療法や認知行動療法が効果を示さなかった場合の新たな選択肢となります。ただし、「高額で効果が限定的」という現実的なデメリットも抱えています。治療効果には個人差があるため、医師と十分に相談し、メリットとデメリットを理解したうえで治療を進めることが重要です。

TMS治療はどんな人に向いている?

TMS治療はどんな人に向いている?

TMS治療は、すべての強迫性障害の患者さんに勧められる治療法ではありません。しかし、一定の条件に当てはまる人にとっては新しい希望になり得ます。

薬や認知行動療法で十分な効果が得られなかった人

強迫性障害の標準治療は薬物療法(SSRIなど)と認知行動療法(CBT)です。これらを試しても症状が十分に改善しない場合、次の選択肢のひとつとしてTMSが検討されます。

薬の副作用に悩んでいる人

薬の副作用(眠気・体重増加・性機能の低下など)がつらく、治療の継続が難しい場合、副作用が比較的少ないTMSは魅力的です。

治療への新しいアプローチを求めている人

強迫性障害は「脳の神経回路の過剰な活動」が関与していると考えられています。TMSはこの神経回路そのものに働きかけるため、従来の治療とは異なる作用メカニズムを試したい人に適しています。

注意点

  • 効果には個人差があり、必ずしも症状が大幅に改善するとは限りません
  • 費用が高額であるため、経済的な負担も考慮する必要があります。
  • 日本ではまだ保険適用外のため、受けられる医療機関は限られています

治療の流れと受ける際の注意点

治療の流れと受ける際の注意点

治療の流れ

  • 初回評価:医師が症状や治療歴を確認し、TMSが適応かどうかを判断します。特に「標準治療(薬物療法やCBT)を試しても改善が乏しい場合」に対象となることが多いです。
  • 位置合わせ:専用装置で脳の刺激ポイント(前頭前野やACCなど)を特定し、コイルを固定します。
  • 治療セッション:1回あたり約20〜40分。椅子に座って受けるだけで、痛みはほとんどありません。
  • 治療の頻度:1週間に5回、合計20〜30回(約4〜6週間)が標準的なプロトコルです。

2. 費用

  • 日本では強迫性障害に対するTMSは保険適用外の自由診療です。
  • 費用は医療機関によって異なりますが、1クール(20〜30回)で30〜60万円程度かかるのが一般的です。
  • 海外に比べて保険制度の壁が大きく、これが日本で普及しにくい要因のひとつとなっています。

3. 副作用と安全性

  • よくある副作用:治療中の頭皮の違和感や、治療後の軽い頭痛。多くは数時間以内に改善します。
  • まれなリスク:けいれん(痙攣)発作が報告されていますが、発生率は非常に低く(数万セッションに1回程度)、全体的には安全性の高い治療とされています。
  • 日常生活:治療後すぐに仕事や学校へ戻れることがほとんどです。

4. 対象外となるケース

以下に該当する場合、TMSは受けられない、または慎重に検討されます。

  • 脳や頭部に金属(手術クリップ、インプラント、人工内耳など)がある人
  • ペースメーカーや除細動器を使用している人
  • 重度のてんかん既往がある人

TMSは短時間で安全に受けられる治療ですが、費用が高額であることや、標準治療を試したうえで適応が判断される点に注意が必要です。
つまり、「すぐに誰でも受けられる治療」ではなく、従来の治療が効きにくい人に検討される新しい選択肢だといえます。

まとめ

TMS(経頭蓋磁気刺激)は、強迫性障害に対する新しい治療の選択肢として注目されています。
特に深部TMS(dTMS)は、強迫性障害に関わる脳の回路を直接刺激できる方法として海外では承認され、臨床で使われています。

一方、日本ではまだ保険適用外で費用が高額、国内のエビデンスも少ないことから、精神科医の多くが慎重な立場をとっています。そのため「否定的」と見える声があるのも事実です。

メリットは、副作用が少なく従来の治療が効かなかった人に新しい可能性を提供できること
デメリットは、費用が高く、効果に個人差があり、万能ではないことです。

TMSは「誰にでも効く魔法の治療」ではありませんが、薬や認知行動療法で改善が難しい人にとっては希望になり得る治療法です。今後、日本でも研究と臨床経験が積み重なることで、普及が進む可能性があります。

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この記事を書いた人

✔関西の国立大学医学部で長年、臨床研究業務に携わる
✔強迫性障害と向き合う当事者として、実体験から得た知識や対処法を発信
✔一度しかない貴重な人生の時間を、強迫性障害に縛られ奪われてほしくない――そんな思いでこのブログを運営。

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