強迫性障害の人が統合失調症を発症しやすい?意外なリスク要因

強迫性障害の人は統合失調症を発症しやすい?意外な共通点とは 強迫性障害の基礎

強迫性障害と統合失調症は、これまでまったく異なる病気として理解されてきました。強迫性障害は、不安や恐怖によって引き起こされる強迫観念と、それを打ち消すために確認や洗浄などの行動を繰り返してしまうのが特徴です。一方、統合失調症では、幻覚や妄想といった現実との境界があいまいになる症状が見られます。

しかし近年の研究では、これら2つの疾患が必ずしも無関係ではない可能性が示され始めています。なかでも注目されているのが、強迫性障害を経験した人は、将来的に統合失調症を発症するリスクがやや高くなる可能性があるという報告です。

1.強迫性障害と統合失調症の概要

強迫性障害と統合失調症どこか似ている2つの疾患

強迫性障害と統合失調症は、それぞれ異なる特徴を持つ精神疾患です。

  • 強迫性障害:自分でも「おかしい」と感じながら、ある考えが頭から離れず、それに対処しようとして確認や手洗いなどの行動を繰り返してしまいます。不安を和らげるための確認行為や儀式的な動作を、自分の意思ではやめられないのが特徴です。
  • 統合失調症:幻覚や妄想などによって、現実と自分の考えの区別がつきにくくなります。また、思考がまとまりにくくなったり、感情の表現が乏しくなったりすることもあります。

これらは異なる病気ではありますが、共通して「脳内の情報処理に関わる神経ネットワークの異常」が背景にあると考えられています。特に、前頭前野や皮質下構造(線条体や視床など)における機能的・構造的な異常が、両疾患に共通して見られることが、神経科学の研究から明らかになってきています。

2.強迫性障害が統合失調症のリスク因子に?デンマークの大規模調査

強迫性障害が統合失調症のリスク因子に?デンマークの大規模調査

2014年にJAMA Psychiatry誌に掲載されたデンマークの全国規模の研究により、強迫性障害と統合失調症には密接な関連があることが明らかになりました。この研究では、強迫性障害を持つ人が将来的に統合失調症や統合失調症スペクトラム障害を発症するリスクが高いことが示されています。

ただし、これは「強迫性障害が統合失調症を引き起こす」といった直接的な因果関係を示すものではなく、両者に共通する脆弱性や背景要因の存在を示唆するものです。

この研究は、デンマークの全国レジスターのデータを用いて行われました。対象となったのは、1955年から2006年に生まれた約300万人で、1995年から2012年までの間に追跡調査が実施されました。強迫性障害と統合失調症、および統合失調症スペクトラム障害との関係が詳しく分析されています。

主な研究結果

  • 強迫性障害の既往歴と統合失調症のリスク:強迫性障害の診断歴がある人は、統合失調症を発症するリスクが6.90倍、統合失調症スペクトラム障害のリスクが5.77倍と、有意に高いことがわかりました。
  • 強迫性障害の家族歴とリスクの関連:家族に強迫性障害の人がいる場合にも、リスクの上昇が認められました。たとえば、親が強迫性障害を抱えている場合、統合失調症のリスクは4.31倍、統合失調症スペクトラム障害のリスクは3.10倍に高まります。

これらの結果は、年齢や性別、出生地、家族の精神疾患歴などを調整した後も変わらず、強迫性障害と統合失調症、そしてそのスペクトラム障害には、共通する遺伝的あるいは病因的な要因が存在する可能性を示しています。

研究の意義と今後の展望

研究の著者らは、「強迫性障害と統合失調症は、おそらく共通の病因経路に関係している」と述べています。これは、両者をまったく別の疾患ととらえてきた従来の考え方に再考を促す結果と言えるでしょう。

今後は、両疾患を結びつける病因の解明が進み、リスク評価や治療法の開発につながることが期待されます。

将来的には、強迫性障害を持つ人のなかで統合失調症を発症するリスクが高い人を早期に見極め、予防的な介入を行えるようになる可能性もあります。また、両疾患を併せ持つ患者に対する、より効果的で適切な治療法の確立も求められています。

3.なぜこの関連性が重要なのか?

なぜ強迫性障害と統合失調症のこの関連性が重要なのか?

一見すると、今回の研究結果は日常生活からは少し距離があるように感じられるかもしれません。しかし、強迫性障害に向き合ううえで、見過ごせない重要な視点を含んでいます。

たとえば、強迫性障害の症状が長引いたり、次第に強くなってきたとき、それは単なる「心配性」や「不安」の域を超え、脳の働きと深く関係している可能性があります。強い強迫観念によって日常生活に支障が出ている場合、その背後にある脳のメカニズムや病理を理解しておくことは、今後の対処において重要です。

また、自分や家族に強迫性障害の症状がある場合には、統合失調症など他の精神疾患にも注意を向ける必要が出てくることがあります。とくに、「現実感があいまいになる」「考えがまとまらない」といった変化が見られる場合には、複数の症状が重なっている可能性もあるため、早めに専門家の診察を受けることが大切です。

4.日常生活での注意点

もちろん、強迫性障害があるからといって、誰もが統合失調症を発症するわけではありません。ただ、症状が変化したり、考え方に極端さが見られるようになった場合には、強迫性障害に加えて他の精神疾患が関与している可能性もあります。

とくに、次のような感覚が続くようであれば、一度立ち止まり、変化に気づくことが大切です。

  • 思考が極端に現実とかけ離れている
  • 自分の考えが誰かに操作されているように感じる
  • 周囲が常に自分を監視していると感じる
  • 強迫観念に、まったく自分の意志が及ばないように思える

こうした感覚によって日常生活や人との関わりが難しくなっている場合、強迫性障害に加えて別の精神疾患が関係している可能性もあります。とくに、「もう自分では気持ちや思考をコントロールできない」と感じるようになったときは、早めに専門家に相談することが重要です。

5.まとめと今後の展望

今回の研究が示したのは、精神疾患はそれぞれ独立したものではなく、互いに深く関わり合っている可能性があるということです。強迫性障害と統合失調症のあいだに共通するリスク因子があるとすれば、診断や治療の考え方にも新たな視点が加わることになります。

強迫性障害があるからといって、統合失調症になるとは限りません。ですが、変化の兆しに気づけるよう、日頃から自分自身の心の状態に目を向けておくことは大切です。心のケアを続けることが、早期の対応やより適切な支援につながっていくはずです。

参考文献:

Meier, S. M., Petersen, L., Pedersen, M. G., Arendt, M. C. B., Nielsen, P. R., Mattheisen, M., Mors, O., & Mortensen, P. B. (2014). Obsessive-compulsive disorder as a risk factor for schizophrenia: A nationwide study. JAMA Psychiatry, 71(11), 1215-1221.Available at: https://pmc.carenet.com/?pmid=25188738

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