強迫性障害(OCD)は、不安や恐怖を打ち消すために特定の考えや行動を繰り返してしまう精神疾患です。手洗いや確認行為を何度も繰り返したり、特定の考えが頭から離れなかったりするのが特徴です。一般的に、強迫性障害は人口の約1~3%の人に見られるとされており、100人に1~3人が生涯のどこかで発症するといわれています。また、発症年齢は10代後半から20代にかけてが多いですが、幼少期に症状が現れることもあります。
では、どのような人が強迫性障害になりやすいのでしょうか? 最新の医学的研究をもとに、強迫性障害の発症リスクが高いとされる要因を解説します。
1.生まれつき「まじめで几帳面」な性格の人(心理的要因)
強迫性障害の発症には、生まれ持った性格(パーソナリティ)が関与していることが多いと考えられています。特に以下のような特徴を持つ人は、強迫性障害のリスクが高いとされています。
✅ 完璧主義:「ミスを絶対にしてはいけない」「何事も正しくあるべき」など、完璧を求める傾向が強い。
✅ 責任感が強い:「自分のせいで何か悪いことが起こるのではないか」と過度に心配しやすい。
✅ 几帳面で慎重:「ルールや順番を守らないと気が済まない」「物の配置が少しでもズレると違和感を覚える」などのこだわりが強い。
このような性格は、普段の生活では「きちょうめんで良い性格」として評価されることも多いですが、強迫性障害の症状として現れると、日常生活に支障をきたしてしまうことがあります。
2.家族に強迫性障害や不安障害の人がいる(遺伝的要因)
強迫性障害は遺伝的要因も関与すると考えられています。研究によると、強迫性障害患者の家族には、強迫性障害やその他の不安障害を持つ人がいる割合が一般の人よりも高いことが分かっています。
具体的には、
🔹 一卵性双生児の研究では、片方が強迫性障害を発症すると、もう片方も発症する確率が高い(遺伝の影響が強いことを示唆)。
🔹 親や兄弟に強迫性障害の人がいる場合、発症リスクが2〜4倍高くなる可能性がある。
ただし、「遺伝=必ず発症する」わけではなく、環境やストレスとの相互作用によって発症リスクが高まると考えられています。
3.強いストレスを経験したことがある人(環境要因)
強迫性障害は、もともと発症リスクを持つ人が、強いストレスやトラウマを経験したとき、あるいは感染症(例えば、連鎖球菌感染症)等で発症する ことが多いとされています。
✅ 仕事や学校のプレッシャー:成績や仕事の評価を気にするあまり、確認行為が増える。
✅ 大切な人の死や病気:喪失体験や家族の病気をきっかけに、「自分の行動が影響を与えるのではないか」と考え、強迫観念が強まる。
✅ いじめや虐待:子ども時代のトラウマが影響し、強迫性障害の症状が現れることがある。
このように、ストレスや感染症が引き金となり、もともと持っていた不安傾向や強迫的な性格が悪化するケースが多く見られます。
4.脳の働きに特定の特徴がある人(生物学的要因)
強迫性障害の発症には、脳の機能異常が関与していることが分かっています。特に、以下の脳の部位や神経伝達物質が関係していると考えられています。
🧠 前頭前野(大脳皮質の一部):思考や意思決定を司る部分。不安や衝動のコントロールが過活動になり、強迫観念を引き起こす可能性がある。
🧠 CSTC回路(皮質-線条体-視床-皮質回路):習慣的な行動や意思決定に関与する神経回路。この回路の過活動が、強迫行為の反復や不安の増幅に関与していると考えられている。
🧠 神経伝達物質(セロトニン・ドーパミン・グルタミン酸など):これらのバランスが崩れることで、強迫観念や強迫行為の悪化につながると考えられている。
このように、脳の神経回路の機能異常や神経伝達物質の不均衡が関与しています。
5.まとめ:強迫性障害になりやすい人の特徴
✅ 生まれつきまじめで几帳面、完璧主義な性格の人(心理的要因)
✅ 家族にOCDや不安障害の人がいる(遺伝的要因)
✅ 強いストレスやトラウマを経験した人、あるいは感染症に罹ったことがある人(環境要因)
✅ 脳の神経回路や神経伝達物質に特定の特徴がある人(生物学的要因)
このように、強迫性障害は単なる性格や習慣の問題ではなく、脳の神経回路の機能異常や神経伝達物質の不均衡に加え、遺伝的要因や環境要因、心理的ストレスなどの複合的な要因によって引き起こされる疾患であることが明らかになっています。そのため、「性格を変えれば治る」といった誤解を持たず、適切な治療を受けることが大切です。
もし、日常生活に支障をきたすほどの強迫観念や強迫行為に悩んでいる場合は、精神科・心療内科で相談することで、適切な治療を受けることができます。 一人で悩まず、専門家のサポートを活用しましょう!